時計好きに「あなたの時計、見せてください」という企画。今回、時計を見せてもらったのは、広告代理店にて、メディアコンサルに携わる小田周知さん。愛用の時計は、お祖父さまの形見のオメガ『シーマスター』と、ファイアーキッズで購入した“同じ歳”のオメガ『スピードマスター』だ。
祖父の形見のシーマスター
「このシーマスターは、祖父の形見。今から12年前、私が33歳のときに譲り受けたものです」
小田周知さん(46歳)は、かつてお祖父さまに腕時計を贈ったことがある。決して高価なものではなかったが、その腕時計をお祖父さまは大切に使い続け、代わりに、このシーマスターが戸棚に眠っていたそうだ。
「新聞社勤めだった祖父は、最初のボーナスでこの腕時計を手に入れたそうです。戦後すぐの頃だったんじゃないでしょうか。本や学びにもっぱらお金を注いだ祖父が、なんでオメガの腕時計を手に入れたのか……、その辺りの話は生前、聞きそびれてしまいました」
きっとハイカラなお人柄だったに違いない。このモデルは、現代のダイバーズフォルムが生み出される以前にリリースされた、オメガ『シーマスター』シリーズの初期モデルである。その特筆すべき防水性能を、パッキンの進化で実現させているが、ケースデザインはいたってシンプル。金張りの発色が、フォーマル感さえも携えている。金時計は、日常使いには気後れするのでは? と思われがちだが、今ではいい塩梅に経年変化して、ご覧の通り、素朴で柔らかな印象だ。
言葉を選ばず言うと、金色の時計を当初は“ジジくさい”と感じた小田さんだったが、腕に着けていくうちに馴染み、やがて代え難い愛着が生まれ、そうやってオメガオーナーとしての自覚が芽生えていった頃……。
「ファイアーキッズのSNSで、1976年製のオメガ『スピードマスター』を見つけたんです。自分と同じ年齢の時計ってすごくいいじゃんって」
自分と“同じ歳”のオメガ・スピードマスター
すぐにお店に連絡、実物を腕に載せて、即決した。
ブレスレットの駒も調整することなしに、最初からジャストフィット。コンディションがとても良く、目立ったキズがない。パーツもすべてオリジナルであり、文字盤も焼けていなかった。
「自分は形見としてたまたまオメガを1本所有していたわけですが、そんな自分に、同じ歳のオメガを購入できるチャンスが突如として現れ、沸いてしまって。80万円台だったと思いますが、勢いで購入しました。高価な腕時計を自分で購入するのは初めてだったので、身が引き締まると同時に、ひとつ大人になったことを実感しましたね」
そうやって、小田さんは現在、2本のオメガをローテーションで使用。仕事で外部の方々と会う時は、フォーマル感を高めるために『シーマスター』、カジュアルな装いの時は『スピードマスター』と、使い分けている。ちなみに、オメガの腕時計を着けていると「あっ。オメガなんですね!」と、すぐに気づかれるそうだ。
「いつの時代のものですか? っていう話から、じつは自分も腕時計が好きで……というように話が発展していって。オメガを腕にしていることで、会話がぐんぐん広がっていく。はじめてお会いする人とも、オメガのアンティークを腕にしていることで、いきなり打ち解けることができました。腕時計とは、人との“縁”が発生するアイテムなんですよ」
時計の面白さは、モノの良し悪しにとどまらない。時計をきっかけに、そこから育まれる人と人との関わり、結び付きにも、さまざまな展開が待っている。加えて、「高価なものだっただけに身につけていると実際に気分がアガります」と、小田さん。よく、時刻を知るならスマートフォン、スマートウオッチで十分では? という論争を目にするが、実際にオーナーの声を聞くと、答えは断然シンプルだ。
「祖父の形見のオメガ『シーマスター』、自分と同じ歳のオメガ『スピードマスター』。そういう強いつながりを感じられる何かがあれば、自分は今後も腕時計を入手していくだろうと思います。何より、自分で稼いだお金で、自分にとって価値あるものを手に入れることができた達成感、自己満足度は半端なく高い。ときには後悔することもあるんでしょうが、購入する時の勢いと、身につけてカッコいいと思えることのほうが勝ると、自分は確信していますね」