野村店長と新店舗プロジェクトリーダーを務める松浦さんという、アンティーク時計の経験も豊富な二人の対談、第2弾。いま時計界において懸念されている新作ウォッチの価格高騰や円安から、修理についてまでその話は及んだ。ベテランならではの話である。
アンティークウォッチはまだまだ安い
松浦:先ほど円安の話が出ましたが、アメリカではマクドナルドのアルバイトの時給が22ドル(笑)朝食をお店で食べると1万円近くかかるとも聞きました。その感覚でいったら、時計が100万円というのは、それほど高くないということなんですかね。
野村:100回朝食を取れば、そろそろ買えるかな、っていう感覚ですよね。
松浦:そういう世界ですね。そうなると、アンティークウォッチはまだまだ安いっていう感覚になりますね。
野村:ほとんどのアンティークウォッチは中古価格ですからね。
松浦:そうですね、まだまだ中古価格で収まってますね。
野村:ちょっと違うのは、一部のパテック フィリップ。
松浦:あとはオーデマ ピゲの『ロイヤル オーク』系とか。その辺りはよく聞く名前です。高くなったなという感じです。
野村:古いパテック フィリップとかは、やはりいいものがあるんです。それでも、中古価格といえるモデルも、まだまだあります。
松浦:この間、銀座のアンティーク展に行った時も、まだこのくらいに収まっているのかっていうのもあったりしまして。スゴイ上昇率という感覚が頭の中にあって、あのパテック フィリップだったらこれくらいにはなってるんだろうと思っていたら、そうでもない、というのもありますね。
野村:そう考えると、ヴィンテージ、アンティークウォッチは狙い目ですよね。
松浦:そうですね。アンティークウォッチは唯一感もありますし。現行品はラグジュアリー感とか、そういうところで押すんでしょうけど、アンティークは雰囲気であったりとか、唯一感であったりとか、他の人と被らないとか。愉しみ方としてはブランドを引っ張りつつ、自己満足できる時計の世界なのかな、と思います。
現行モデルの作りとは?
野村:ものと値段とで考えると、古いアンティークはいま作らせたらいくらになっちゃうの、っていう宝探し感があります。「この作りで100万かぁ、でも新品作らせたら1000万コースじゃない?」みたいなことだったりとか。
松浦:どうなんですかね。いまの現行モデルの作りというのは、電化製品と同じように、壊れないように作るっていうコンセプトをあんまり持ってないんですかね。
野村:持ってないんでしょうね。
松浦:昔は壊れないことが美徳であって、「これ頑丈だぜ、使えるぜ」っていうのが、ブランドの信頼につながるものでもあったんですけど、今の時計の作り方って、そういうものとは違うような気がするんですよね。
野村:メーカーも修理の囲い込みをしていて、自分の会社でしか直せないように作ってます。修理が発生したら会社が儲かるという仕組みなのです。
松浦:だから囲いたいと。
野村:極端な話、一回外したら、そのまま付かないパーツとか。交換パーツが独自にある前提で、修理という時計が多いですね。
松浦:一部では、針が取れたらもう使えないとか、ありますからね。
野村:昔だったらありえないんですけど、それは町の時計屋さんが修理するという前提で作られてるものか、メーカーで修理することが前提で作られてるかで違いますし。変な話、修理が発生したらメーカーが儲かるんですよ。そうなると壊れないように作る必要はないでしょ、という感じになるんです。でも、壊れやすいかっていうと、そんなことはないんです。針を一度外したらもうつかないっていうのは、逆にいうと簡単に抜けないような構造になっているんですよ。だから、針落ちとか、そういった故障は起きなくなっています。その代わり、外れたら戻らない。どっちがいいのか、難しいところです。
松浦:難しいところですね。
野村:普通に考えて、1970年代から80年代にかけて、スイスのメーカーの8割方がなくなってるわけじゃないですか。そう考えたときに、いま100万、200万で買った時計を20年後に修理できますか、ってなったら、わからないですよね。このメーカーは20年後あるかな、という。
松浦:また部品の保有も、20~30年が目一杯だと思いますから、そう考えると、すみません、これ直せませんっていうところが、結構出てくるんじゃないですかね。
野村:200万、300万する時計が、20年後ははっきりしませんというのは。
松浦:ホントにトップのメーカーじゃないと、そういう体制を整えられないですよね。
オメガ『コンステレーション』1968年製
町の時計屋さんで修理できる構造
野村:2000年頃、ものすごい人気だったブランドが、いま、あれ?してる人いないね、みたいなのがありますから。10年後、生きてるのかな、って思っちゃいますよね。そう考えると、まさにアンティークのオメガとかは、町の時計屋さんで修理できる構造なので、本当に一生ものなんです。
松浦:そこは大きいですよね。アンティークウォッチがアンティークウォッチたる所以というか、直しながら使っていける。
野村:あれ?最近このメーカーは聞かないな、どうなっちゃたかな?っていうメーカーがちらほらありますね。本当に一生ものだったのかこれは、って。高いお金を出して。
松浦:機械式時計ということだけの一生もの、だったんですかね。ロジックですよね。
野村:パテックフィリップやIWCなんかは、100年経っても直してくれるわけで。100年後あるの?っていうメーカーが乱立してるわけですよ、いまは。そう考えると怖いですね。ロレックスもそこまで直さないと思いますが、高額で流通してますから、パーツ屋さんは作れば必ず売れるわけじゃないですか。だからジェネリックでスイスのメーカーとかがパーツを作るんですよね。なので、直せないというケースはほぼないと思います。もちろん、新品と同じような精度は得られない、というのはあると思いますが。
IWC ラウンド オート1969年製
松浦:それだけみんなの中では売れてるというか、ロレックスだぜっていうのが身に染みているから、それができるんでしょうね。
野村:費用さえかければ直せるだろ、という部分はありますけどね。
松浦:修理も囲うことでブランドのイメージを保つというか。修理に20万かかちゃったよ、ということが言いたい人もいます。それだけいい時計ってことをアピールしたいっていう。そういう戦略もあるのかな、と思いますね。
野村:最初はブライトリングですよね、囲い込みを始めたのは。
松浦:「クラブ・ブライトリング」ですね。ありましたね。
野村:で、正規店で買えば半額みたいな。それで修理で儲かるんだということがわかったということなんですよね、各メーカーが。
松浦:いまはストラップも含めて、いろいろ囲い込みが行われてます。ブランド戦略も、すごい緻密にやりとりされてるんだと思うんですよ。エルメスとかシャネルとか、時計に限らず、すごいですよね、囲い込みとルール付けが。そういったことが、これからもまだまだ起こるのではないかなと思います。