お馴染み、「FIRE KIDS」の野村店長と鈴木顧問が、毎回、ROLEXを1モデルずつピックアップして熱く語り倒す! 対談企画がスタート。第Ⅰ回のテーマは、「GMTマスター」Ref.1675です。
ROLEX「GMTマスター」ペプシ Ref.1675 Cal.1570 1977年製 ¥2,680,000(税込) FK001265。名機と言われた第2世代「GMTマスター」で、ダイアルは4型。ドットインデックスは大振りで、ミニッツインデックスとの隙間がないタイプ。ROLEXのクラウンマークはやや縦長なフォルムが特徴
――新連載がはじまりました! 第1回のテーマは、「GMTマスターRef.1675」です。ちなみに、2023年2月の時点で「FIRE KIDS」店頭にディスプレイされているのは、1977年製のRef.1675。そのほか、1982年製(Ref.16750前期型)、1985年(Ref.16750後期型)も並んでいます。
鈴木顧問 昔は「サブマリーナー」のほうが、圧倒的に人気があったんですけれど、今は逆転とまでは言いすぎですが、「GMTマスター」の方が好まれているようです。世代で言うと、40代以上の大人たち。「サブマリーナー」は少々飽きて、「GMTマスター」にするっていうかね。ケースも薄くて、着けやすいです。
――そうなんですか? 「サブマリーナ―」と比べて、ケース厚がそんなに違う?
サブマリーナーと比べるとケースが圧倒的に薄く、着け心地もしなやか。Ref.1675以降はリューズガードも付き、実用性能を高めている
鈴木顧問 全然、薄いですよ。しかも、「サブマリーナー」と比べて、リュウズも小さいんです。このあたりの感覚が、「サブマリーナー」のガッチリ感とはちょっと違う。
それと、昔は“赤青”のベゼルカラーがそんなに好まれませんでした。“赤黒”ベゼルにわざわざ換える人までいたんですが、今はこのペプシカラーで、なおかつ退色したコンディションのほうが断然人気です。
――なんで、ですかね?
鈴木顧問 バブル時代のときって、とにかくキレイなものが流行ったんです。何でもピカピカっとしたものが好まれました。
野村店長 “ALL NEW”みたいなのが流行りましたからね。わざわざメーカーに出して、外装部品を新しいものに換えて。
鈴木顧問 それがキレイでカッコいいみたいなね。
野村店長 今、それをやってしまったら、査定が下がります(笑)。
時針が12時間で一回転するのに対し、24時間針は1日に一回転。24時間表記のベゼルと対応して、ホームタイムを表示する。Ref.1675も第2世代以降は三角形が大きくなり、現行品につながるバランスをすでに見せている
夜光塗料材はラジウムからトリチウムとなり、6時位置のアワーインデックスの外側には「SWISS−T<25」と表記されている
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――まず、この1977年製(Ref.1675)の推しポイントってどんなところでしょう?
野村店長 正直、外観はRef.1675とそれ以降のRef.16750で、ほぼ変わってないんですけども、中身の機械ですね。Cal.1570(Ref.1675)とCal.3075(Ref.3075)。ハイビート化され、日付早送り気候が付いたのがCal.3075。1970年代後半ですか……。
1960年代中盤から1980年代後期まで活躍したCal.1570を搭載。精度と耐久性のバランスが見事で、歴代ロレックスのキャリバーの中でも名機とされている。振動数は5.5振動
鈴木顧問 そうですね。Ref.16750の前期型だと、Ref.1675とも顔は同じですが、アンティーク好きの人だとやはりRef.1675を好みますよね。ちなみに、Ref.1675とRef.16750前期型は、ともにインデックスが“縁なし”と言われる金属フチがないタイプ。Ref.16750後期型は、金属の枠の中に夜光が収まっています。
一方で、Ref.16750後期型は現状の値付けが圧倒的にリーズナブルなので、フチがあっても、全体のコンディションが良ければいいっていう人もいます。
――ちなみに、Ref.16750のハイビート化とは、8振動ということですか?
鈴木顧問 そうです。Cal.1570(Ref.1675に搭載)は5.5振動。ちなみに、Cal.1570よりもさらに前のCal.1560は5振動でした。
5振動→5.5振動→8振動と進化して、以降は現行品に至るまで8振動です。そしてCal.3075はさらに、日付早送り機構が付いたので、実用的にもブラッシュアップされました。
ちなみに、このRef.1675は、文字盤のマット感も特徴。ツヤ消しの黒っていうかな。この後のRef.16750前期型はブラックミラーになり、さらにRef.16750の後期型はまたツヤ消しに戻った。
ブラックミラーよりも落ち着いた印象を与えるツヤ消しのブラックダイアル。直射日光の下でも光の反射が抑えられ、時刻を読み取りやすい
――どういう経緯だったんでしょう?
鈴木顧問 その時、ロレックスが使用した塗料の特徴ということなんでしょう。
――好みが分かれますが、ツヤ消しだとよりアンティーク感が強調されますね。
“生まれ年ロレックス探し”が難しい、受難の1975年、1976年
野村店長 Ref.1675について、この個体は1977年製なんですけど、僕の知る限り1975年製と1976年製ってないんですよ。
1974年製のRef.1675は見たことあります。1977年製のRef.1675も見たことがあります……。要は、ロレックスが売れなかった時代なんです。クオーツショックで。そして、この翌年からRef.16750が出てきたので、多分、ムーブメントのストックを吐き出しちゃおうって、作ったんじゃないかなと思うんです。
Cal.1570を使い切ってから、Cal.3075に切り替えたんじゃないかなって、僕は個人的に思ってるんです。「サブマリーナ―」もそうですし、「エクスプローラー」もそう。1975年製、1976年製って、ほぼないんですよね。
後に、メーカー修理でケース交換した際に、1976年の番号が振り分けてあったり、そういう個体は見たことがありますけれども、オリジナルの1976年製は見たことがない。多分、そういう事情があったんじゃないかな? 1977年製、1978年製のRef.16750を見ると、本当は相当昔から生産してあった機械なんだろうな……と思うんですけどね。
Ref.1675のダイアルは、1〜6型まで存在するが、このダイアルは4型を搭載。クラウンマークは、この4型までが縦長。そして、この4型からドットインデックスが分目盛りの際ギリギリに配されるようになり、時計の顔が大きく見えるようになった
鈴木顧問 クオーツが登場したのは1969年ですけれども、いきなりクオーツショックが来たんじゃなくて、やっぱり1970年代に入って、段々とクオーツモデルの価格が下がるとともに、世間に広まってきて。しかもロレックスは今ほど人気がなかったので、特にスポーツ系はさらに売れてなかった。
野村店長 1975年製、1976年製で出てくるのは、「チェリーニ」とか、金無垢系。「デイトジャスト」も、やっぱり1977年製、1978年製はあるんですけれど、1975年製、1976年製はないんです。
鈴木顧問 作ってしまった在庫を減らしてからという趣旨で、この間、製造を止めたのか……。
野村店長 あるいはクオーツモデルの開発に労力を取られていたかもしれませんよね。ちょうど1973年から1974年で、50周年記念のオイスターケースが出て、そのケースを使ってクオーツモデルの新作を出してくるのがその後なんで。多分そういった事情とかが、あったんじゃないかな。
――ということはこの両年製のモデルは、現在のアンティーク市場でも流通している在庫数がレアってことですよね?
野村店長 うん。そういう面白さはあるかもしれないですね。
――そして、Ref.1675は、現行デザインに近い1980年代ではなく、1950年代から続く、趣があるスタイルを継承する最後の品番っていうことでしょうか?
野村店長 外観から言うと、Ref.16750前期型もアンティーク顔なんですけれども、ハイビートの機械なんで、針の動きや刻音は、もう全然変わってくるんですよね。8振動になると、針も滑らかに動くので。5.5振動から8振動へと、一気に跳ね上がるんで、全然別物。
うん。だから外観はほとんど一緒なので、どこで判定するのって言うと、針の動き。あとは、針を重ねる順番が違ったりするんですけどね(笑)。Cal.1500番台までは24時間針が一番下、それから順に短針、長針、秒針なんですけれども、Cal.3000番台は短針、24時間針、長針の順になっています。
――えっ、何で、なんでしょう!?
野村店長 機械の設計上なのでしょう。時針も半分の間隔で送られる構造となっているので、その動力をどこから取るかっていうことです。そういう細かな違いがあります。
鈴木顧問 自分は、お店をやる前から時計が好きだったんで、手軽に買えるロレックスって言うと、「サブマリーナ―」のRef.5513さんと、この「GMTマスター」Ref.1675が2トップでした(笑)、すごく安かったんです。だから気楽に買ってましたね。当時は弾数もあったし、そんなに人気があったわけじゃないので、よく手にしてたというか。
――いつぐらいのお話ですか?
鈴木顧問 1990年代前半ですね。あるいは店を始めた頃もそうですし。あの頃で、20万円しないくらいだったような。
野村店長 「サブマリーナー」Ref.5513が20万円くらい。「GMTマスター」Ref.1675は、それよりもちょっと安いぐらいのイメージでしたね。
鈴木顧問 その頃はアンティークというよりも中古というイメージで、ロレックスもブームという感じでもなかったので。このモデルは、“買いやすいロレックス”だった。ロレックスでも、コンビ(SS&G)のほうが断然好き、というような人がいたりする時代だったので。あえてこれらを欲しいっていう人が少なかったのかもしれません。
野村店長 今で言うと、ガラケーみたいなもんですよ(笑)。いまさら自動巻き? っていう時代だったので。そういう扱いでしたし、そういう価値だった。
鈴木顧問 アンティークショップもそんなにたくさんあったわけじゃないので、買うところは質屋さんでしたしね。質屋さんのショーケースに並んでて、「あった!」みたいな感じで、見つけて買うみたいな。
野村店長 僕にいたっては、フリーマーケットでしたからね。
鈴木顧問 でも実際には、石原裕次郎さんのような大スターが使ってたんですよね。赤青ベゼルの「GMTマスター」を裕次郎モデルって呼ぶ人もいます。ヨットに乗って、これを着けてたんじゃないですかね。
――へぇー。
鈴木顧問 元々はパンナム航空のパイロットウォッチですから、ヨットとは関係ないんですけれど(笑)、なんでか、裕次郎さんは「GMTマスター」を選んだんでしょうね。
野村店長 裕次郎記念館に飾ってあったモデルを、松屋銀座の催事で展示したときに見てきましたけれど、4桁のロングE(※)。1969年もしくは1970年くらいのモデルでした。かっこいいですよね。ハワイ時間に合わせて、ベゼルを傾けてたっていう話です。日本とは19時間差ですからね。
※Ref.1675の1型ダイアル搭載モデル。
――素敵ですね。心はハワイ。でも、「GMTマスター」って、言葉を選ばずに言うと、ロレックスのスポーツモデルの中では、一番人気がなかったモデルではないですか?
野村店長 「デイトナ」「GMTマスター」はずっと人気がなかったモデルだったと思います。
――何かきっかけがあったんですか?
鈴木顧問 うーん、今、“映える”って言葉がありますけど、「GMTマスター」って“映えます”よね。画像として見たときに。
――ベゼルに色が付いてますからね!
鈴木顧問 しかも、その色の褪せ方。その辺がきっかけになったんじゃないでしょうか。
TOKIOの長瀬くんも多分、4桁かな? Ref.1675を着けているのをテレビで観たことがあります。テレビ画面でも、赤青って目立つじゃないですか。その番組内でも腕時計の話が出て、古いものが好きなんですって。昔のハーレーと腕時計が好き、みたいな。
野村店長 This is AMERICA! っていう色使いですもんね。
鈴木顧問 古着とかに合わせて、着けてもカッコいい。
――でも当時、20万円弱だったものが、どうしてこんなに値上がりしたんでしょう?
鈴木顧問 突然上がったわけではないですね。段々と、です。
野村店長 そうですね、30万円ぐらいの時代が10年以上、続きましたから。これだけは値段が上がらない時計と思って仕入れをしてた。
ただ、現行品の「GMTマスター」で、赤青ベゼルを1回なくしたんです。そのタイミングで、跳ね上がったかもしれないね。ないものねだり、なんですかね。
――確かに、赤青の色の褪せ方って、ひと目でアンティークってわかります。他のモデルにはないことです。
野村店長 現行品のベゼルはセラミック素材で退色しないから、余計そういう魅力を感じるかもしれないですね。
――この色褪せするアルミベゼルがいいのに。ジーンズの色落ちのような。
鈴木顧問 ロレックスにしたら、トリチウムが焼けるとか、ベゼルの色が褪せるっていうことはクレーム対象ですから、より変化しない塗料、変化しない部材を求めた。メーカーとしての改善ポイントなのでしょう。
――でもそれは、マニア心としてはいささか残念です。
鈴木顧問 現行品がある程度の年数を経ても、こういうアンティークの風合いにはならないでしょう。だからこそ、現存する個体に、唯一無二の価値があるのだと思います。
野村店長(左)と、鈴木顧問(右)。ROLEXにまつわるふたりの熱血談義はこれからも続く!