FireKids 店長 野村 一成が語る ヴィンテージウォッチの魅力

FireKids 店長 野村 一成が語る ヴィンテージウォッチの魅力

ヴィンテージウォッチの魅力ってなんだろう? FireKids店長、野村一成さんは「価格」を理由にあげる。


ヴィンテージウォッチへの入り口は安いことだった


FireKidsの店長、野村一成さんは16歳の頃にはもう、時計に興味があったという。成人してサラリーマンとして働き出したのだけれど、時計への興味はうせず、川崎の時計店『スイートロード』の創業者、中村昌義さんのもとでアルバイトを始めた。中村さんとFireKidsの創業者、鈴木雄士さんとはフリーマーケット仲間だったので、 野村さんと鈴木さんもこの頃から知り合い。野村さんは、スイートロードで10年弱働き店長も経験。その後、独立した。ヴィンテージウォッチのディーラーとして活動していたが、2022年3月、FireKidsのリニューアルオープンに合わせて、鈴木雄士さんから誘われる形で、2代目の店長となった。


そんな野村さんに、ヴィンテージウォッチに惹かれた理由ってなんですか? とたずねてみると


「そう問われると、プロですからカッコいいこと言いたくなりますが、僕の場合、正直に言って、入り口は安かったからです。そこから沼にハマった感じですね。なにせ、1980年代は オメガ『シーマスター』が2万円くらいで買えた時代です。機械式時計の評価がものすごく低かったんです。IWCなら1万2千円で買えるものもあって、パテック・フィリップでも10万円台で買えました。その頃は、古い時計を買うのもアンティーク時計店ではなくて、質屋ですよね。僕は当時高校生で、『モノ・マガジン』でIWCがすごい、なんていう特集を読んでいて、憧れて。友達と質屋をめぐって、あ、これ載ってたやつだ! 買える! というようなノリでした。」


新品の時計にももちろん興味があったけれど、買った後の付き合い方がハードルだったという。


「新品を買うこともあったんです。覚えているものだと、オメガの『スピードマスター』IWCの『ポートフィノ』とか。でも、メーカーにメンテナンスに出すのが高い壁に感じていました。近所の時計屋さんは、分解掃除を1万円くらいからやってくれるけれど、メーカーに出すと5万円、6万円とかかる。それが定期的にとなると、及び腰になってしまうんです。」


オメガ『スピードマスター』


新品とヴィンテージウォッチのメンテナンス価格差の理由


なぜ、新品の時計と中古の時計で、メンテナンスにここまでの価格差があるのか。その疑問に答えを見出したのは、プロになってからだった。


「街の時計屋さんでメンテナンスすることを前提に作られた、かつての時計と、現代の、メーカーで修理することを前提とした時計は、違うんだ、ということがわかりました。今の時計は、買ったお店に修理に出すと、お店はメーカーに出す、というのがメンテナンスです。しかし、1970年代くらいまでの時計は、メーカーがサポートするのではなくて、街の時計屋さんでメンテナンスすることを前提として作られているんです。だから、維持費用が安く済む。」


ここから、徐々に新作の時計への興味が弱くなっていった。


「20代前半の僕は極度の時計好き。しかも収集癖があったので、たくさんの本数を抱えていたんです。とはいえ、そんなにお金に余裕があるわけではないから、メンテナンスはいつも悩みのタネでした。例えば、この当時、IWC『ダ・ヴィンチ』には、ものすごい憧れました。でも、オーバーホールに30万円くらいかかると言われて、定期的なメンテナンスで一回にそれだけかかる、なんていう現実に直面すると、複雑時計への憧れも薄れてしまったんです。一方で、ヴィンテージウォッチは、その悩みをだいぶ軽くしてくれます。1940年代のロレックス『オイスター』であれば、分解掃除は当時で1万5千円とか、2万円以内でできたので、そういうところからも、古い時計のほうが魅力的に感じました。それに、もともと歴史に興味があったので、時代を経た時計との付き合いから、歴史を感じるのも楽しかったんですよね。」

 

ロレックス『オイスターパーペチュアル デイトジャスト』



この維持費の価格差は、現在、さらに大きくなっている傾向がある。


「おそらく、スイスの人件費が関係しているとおもいます。スイスはもう世界一といっていいほど人件費が高い国になっています。当然、時計にまつわる価格も高くなります。歴史的に言うと、アメリカの時計産業と、スイスの時計産業が競って、スイスが勝ったのは、スイスの人件費が安かったからです。ただその後、スイスの時計業界の覇権を揺るがしたのが日本ですよね。それも日本の人件費、日本の時計が安かったことは理由のひとつにあるはずです。」


「というのは、1970年代後半かな。オメガのニコラス・G・ハイエックさんが、セイコーの部長のお給料が、スイスの事務員のお給料と変わらなかった、という話をしていたんです。それで、これじゃあ日本にかなわないはずだ、と。スイスの復権は『Swatch』からですよね。この利益が、機械式への投資を可能にした。時計にとって、価格の問題は大きいとおもいます。」


新作復刻時計のライバルはヴィンテージウォッチだ


2010年代に入ると、有名なスイスのブランドから、かつての自社の時計を復刻するような動きも出てきた。


「最近の復刻モデルの傾向を見ていても、新品の時計のライバルはヴィンテージウォッチだと私はおもいます。私がヴィンテージウォッチに傾倒した理由のもうひとつが、これです。」


野村さんは、時計の作りと価格の問題を指摘する。


「いま、ここまで手をかけてつくったら、いくらになっちゃうんだろう? という時計がヴィンテージウォッチにはゴロゴロあります。宝探しですよ。こんなにいいものが、こんな値段で!?  というものに出会えますから。最近の新しい時計は、自社ムーブメントが増えていますよね。自社ムーブメントには当然、開発費がかかります。それに、そういった時計は、構造が複雑化していて、たとえば、一度外してしまったら、メーカー以外では針が着けられないなどといった、メーカーでしかメンテナンスできない時計というのが多くあります。とはいえ、あのパテック・フィリップですら、クオーツショックの時代という、存続があやぶまれた時代がくることもあったのです。」


それが、これから先は未来永劫おこらないという保証はない。


私は、大切に使えば一生使えるもの、それどころか、子供に、孫にと引き継がれる時計がアンティーク時計だ、と考えています。そう考えたときに、すでに何十年も受け継がれた実績のある時計は信頼できる、とおもいます。」


一本はヴィンテージウォッチを試してみてほしい


そして、ヴィンテージウォッチの魅力の最後に、デザインを挙げる。


「時計のデザインには時代時代の流行があります。その時代の雰囲気が出ていることが魅力的な時計、というのはたしかにあるのですが、先程言ったように、一生使える時計、孫の代まで引き継ぐ時計、として考えると、やはりオーソドックスな見た目の時計を持っていていいように私は思います。」


と、ヴィンテージウォッチの魅力を語ってくれたあとに、野村さんは、ただし、と条件をつけることも忘れない。


「アンティーク時計は新品の時計と比べて、我慢しなくてはいけない部分があります。精度が新しい時計に及ばないこと、そして、防水性能や耐衝撃性といった部分では劣ります。そこは理解した上で、付き合ってください。」


こうした、ヴィンテージウォッチと付き合う上で、気をつけるべきこと、そして、ヴィンテージウォッチを使ってみたい人に、野村さんがおすすめする一本、オメガ『スピードマスター』については、また別の記事で。

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