インターネットで古い時計を買う時などに「この時計、買っても大丈夫かな?」 とおもうことはないだろうか。そんなときに、どこを見ればいいのだろうか。
時に1000本を越える時計が並ぶ中古時計のマーケットで、誰かの一生モノの時計にふさわしい時計を見極めるプロのバイヤーはどこに注目するのか?
1.自分が興味を惹かれるか
「当然、手にとって、ルーペで文字盤を見て、ゼンマイを巻いてみたり、針を動かしてみたり、あるいは内部が見られるなら機械を見てみたり、ということをすれば、その時計がちゃんとしたものかどうか、プロならばわかります。とはいえ、中古時計のマーケットで何百本もの時計をいちいちそうやって見ていくことは出来ません。だから、時計を見極めるにあたって、まず最初のポイントは『自分が興味を惹かれるか』です」
ファイアーキッズの野村店長はそう言う。要はインスピレーションだ。とはいえ、その背後にはやはり、プロとして時計を見続けてきている経験がある。
「時計好きといっても、機械に惹かれる人、ルックスに惹かれる人、その時計の生まれた時代背景やストーリーに惹かれる人、と、時計のどこが好きかには違いがあります。でも私は、どの趣味の方の気持ちもわかるんです。だから、まずは、自分が『いいな』とおもえるかどうかが重要です。メーカーやブランドなども商売上は大事なのですが、私たちが扱う時計は、ファイアーキッズのような専門店で時計職人がメンテナンスしていけば、一生モノにできるような時計です。だからマイナーなメーカーのもの、あるいは、もう存在しない時計メーカーの時計でも、よい時計ならば、メーカーサポートの有無などは心配要りません」
では、そのよい時計を見極めるにあたっては、どこを見るのか?
2.整合性がとれているか
「もちろん、特有の弱点がある時計、とか、扱いの難しい時計については、知識が要るのですが、一般的にまず注目するのは、ケースと文字盤の状態です。文字盤がきれいか? ケースの状態がいいか? このふたつが大丈夫ならば、それはつまり、内部の大きなトラブルになるような事件がその時計には起きていない、ということです。多少、劣化していても修理すればきちんと使えるようになる可能性が高いですし、修理コストも想像できます」
ケースの細かな傷は、修理しようとすれば出来るので、あまり問題ではない。問題は大きなダメージ。たとえば、衝撃を受けた痕跡がケースにあれば、当然、その内部の機械もダメージを受けている可能性が高い。歪みがあれば、気密性が下がり、内部に水分が入ってるかもしれないし、腐食していれば、やはり、腐食の原因になった何かが起きているはずだ。
文字盤がキレイなのに、ケースが腐食している、などという、ちぐはぐな状態は要注意。これは文字盤だけが書き換えられている、など、なんらか、マイナスを繕っている可能性がある。
「その時計のルーツを聞く、というのも有効です。どこからどう出てきた時計なのか。その話と時計の状態が一致していない場合、なんらか、人を騙すようなことをしている、ということになります」
実際に手にとって、細かくコンディションを見ていくのは、その後なのだ。
「それで、合格ならば、あとは値段ですよね。プロの場合、売られている値段と、自分が売りたい金額との差で商売になるかどうかが決まりますから。ただ、昔とくらべると、相場、というものが、いまはあまりアテになりません。コンディションが良いならば、高くてもしょうがない、という時代です。」
ゆえにアンティーク時計は、20-30年前と比べると高くなっているけれど、それは価値が正当に評価されるようになっている、といえるかもしれない。
「パテック フィリップなどはいい例で、2000年代になるまでは、一般的な知名度が低かったんです。質屋で10万円代で売っていたこともありました。これはもう、時計の価値ではなく、金の重さではかられているような状態です。1980-1990年代は機械式時計というものが、そもそも価値あるものとはみなされていませんでしたから」
3.「お店のほうが高い」の意味を知る
では、現在、オークションサイトなど、インターネットを使った個人間の売買で、お店よりも安く時計を買ってもいいのか?
「インターネットで時計を買う場合などは、売り手が誰か、というのを調べてみるといいとおもいます」
と野村店長はアドバイスをくれた。そして「相手がプロの場合ほど気をつけたほうがいい」と。
「というのは、プロのディーラーなどは、本当にいい時計であれば、アンティーク時計専門店に持ち込んだほうが高く売れるんです。こちらもプロですから、価値をきちんと認めて、品質の高いものは、高く買います」
しかしプロの目は厳しい。おかしな時計であれば、見破られてしまう。店頭に並べてもらったり、買い取ってもらったり出来ない時計を、個人売買などで販売するケースは、少なくないのだそうだ。
「もちろん、個人がいいものを持っていて、それをインターネットで売る、という可能性はゼロではありません。ただ、大量に出品している人が売る、専門店の値段よりも安い時計、というのは、なにか裏があるとおもったほうがいいとおもいます」
そうやって買った時計が修理やメンテナンスでファイアーキッズに持ちこまれて、ユーザーは初めて隠されていた素性を知る、などということもあるそうだ。やはり専門店で買う、というのには意味があるのだ。