腕時計の発展に貢献
1905年の創業以来、いち早く腕時計の製造に取り組んだロレックスは、腕時計の発展、実用化へ大きな役割を果たしてきた。
なかでも26年に登場した“オイスターケース”は、腕時計の飛躍的な発展に大きな影響を及ぼした。金属塊を削りだすことでつくられる堅牢なケースと、ねじ込み式の裏蓋、リューズの組み合わせは、完璧な気密性を持ち、比類なき防水性能を実現させたのだ。
その翌年にはイギリス人の女性速記者が、ロレックスの『オイスター』を身につけドーバー海峡を泳いで横断したことで、その防水性能の高さは世界中に証明されることとなる。
そしてオイスターケースを発展させることで完成したのが、世界で初めて100mの防水性能を持ったダイバーズウオッチ『サブマリーナー』だ。53年のことである。防水性は、それまでのオイスター・ウォッチの2倍であった。
以降『サブマリーナー』は、ダイバーだけでなく一般ユーザーからも高い人気を誇るモデルのひとつとなっていった。それは高い防水性能という実用性に加え、洗練されたデザインによるところも大きい。カジュアルシーンだけでなく、ビジネスシーンでの着用が多いのも、このモデルならではである。
『サブマリーナー』は約70年と長い歴史の中でデザインは継承されており、これもロングセラーの要因のひとつとなっている。ただ、デイト表示の有無、素材違い、カラー違いなど、マイナーチェンジは頻繁におこなわれており、バリエーションはかなり多い。つねにアンティーク市場には出回っているにもかかわらず、それでも高い人気を保ち続けている。
ペンシル型の針を持った初代モデル
53年に登場した初代モデルは、回転式ベゼル、ドットのインデックスなど、その見た目は現行モデルとほぼ変わっていないが、初代のベゼルにはメモリが刻まれておらず、針はペンシル型が採用されている。秒針の先にはボール状のマーカーが付いているのも現行モデルと違う点だ。いまは記載されている防水性能の表示もない。搭載のムーブメントは、自動巻きCal.A296。厚めのムーブメントなので、ケースバックがやや盛り上がっているのも特徴である。
続く第2世代は、56、57年頃に登場したRef.6538。ムーブメントはCOSC(スイス公式クロノメーター検定)公認のCal.1030である。200mと防水性能は大幅にアップしている。
デザイン的には、ベゼルにメモリが打たれ、現行と同じベンツ針や大きめのリューズなども新しいものになっている。しかし、同時にメモリが打たれてないもの、ペンシル針を使ったものなども存在しており、多くのバリエーションがあるようだ。なかでも大きめリューズのモデルは、ジェームズ・ボンドが着用していたこともあって、“ボンド・モデル”とも呼ばれ、人気である。
59年になると名作と呼ばれるRef.5512が登場する。このモデルは20年近く製造が続くロングセラーで、現代のダイバーズウォッチには欠かせない装備のひとつとなっているリューズガードが、初めて採用されている。そのリューズガードも、初期のものは先が平らになっているが、その後、先が尖ったものにデザインチェンジされるなど、Ref.5512のなかでもディテール違いのモデルがいくつか存在する。ムーブメントはCOSC公認のCal.1530だが、クロノメーター表記のないモデルもある。
また、回転式のベゼルは押し込まないと回らないタイプに変更されており、ダイバーズウォッチとしての進化を遂げている。
多くのバリエーションが存在する
Ref.5512の製造期間中には、英国、フランス、カナダ海軍などに正式採用されたモデルやフランス潜水作業専門会社「COMEX」用のモデル、HEV(ヘリウム・エスケープ・バブル)搭載モデル、他にも外周サークルダイヤルのものや、ミラーダイヤルのもの、など、多くのバリエーションが誕生している。
65年には『サブマリーナー』に初めてデイト表示が付き、デイトを約2.5倍に拡大させるお馴染みのサイクロップレンズもお目見えしている。さらに「SUBMARINER」が赤で表示されたモデルもラインナップされており、これは現在のアンティーク市場で高値で取引されているということだ。
以降もマキシダイヤルと呼ばれるインデックスが大きいもの、ノンデイトモデル、ベゼルにコーポレートカラーのグリーンを纏ったモデルなどなど、現代までには本当に多くのバージョンが製作されているのも、『サブマリーナー』の大きな特徴のひとつである。
デザインの普遍性はもちろん、当初から防水性、耐久性が高く、堅牢なモデルなので、アンティーク市場には状態の良いものが数多く残っている。期待通りにコンディションの良いアンティークウォッチを望めるのは、嬉しい限りである。