アメリカ人によって設立
IWCはスポーツウォッチから複雑時計まで、あらゆるジャンルの高級時計を高いレベルで作り出しているブランドだ。今日の隆盛は、創業当時から受け継がれてきた技術に支えられた高い品質にあることは、誰もが認めるところである。
誕生は1868年。アメリカ出身の時計師、フロレンタイン・アリオスト・ジョーンゾが、スイスのシャフハウゼンに設立した会社なので、スイス時計のブランドには珍しく「Intenational Watch Company」という英語の社名が付けられている。現在の表記はその頭文字からとられたものだ。
それにシャフハウゼンがドイツ語圏の街ということもあって、主流のジュネーブやジュウ渓谷のフランス語圏とはテイストが少し異なっているのも_特徴だ。
そんなIWCが、一躍世界的な注目を浴びることになったのが、1936年に誕生したパイロットウォッチ、通称『マーク』シリーズである。ただ、当初はパイロットウォッチということだけでモデル名がなく、初代モデルに『マークⅨ』と付けられたのは『マーク11』の登場以降になる。
その『マークⅨ』だが、ケースは3ピース構造で裏蓋にはスナップバック(はめ込み式)が採用されている。フライトでの気圧の変化へ対応するための機密性への対応である。また、パイロットウォッチには計器類を操作するために耐磁性が必要なのだが、『マークⅨ』はケース自体にその機能はなかった。だがヒゲゼンマイなどパーツに耐磁性を考慮したものを使用することでカバーしている。ムーブメントは高精度を誇るCal.83である。
そのような実績もありイギリス空軍からの依頼を受けて、45年に製作されたのが『マークⅩ』だ。第二次世界大戦向けに製造したもので、イギリス政府官給品として納入された。なので、このモデルにはイギリス空軍の証である3本のブロードアロー(矢印形)が文字盤と裏蓋に記載されている。
ムーヴメントは『マークⅨ』と同じCal.83。ケースもスナップバックが採用されているが、構造をベゼルとミドルケースを一体化した2ピースに変更し、防水ケースとした。これはフライト時の急激な減圧に対応するためでもあった。
“マーク”という名が正式に規格名に
そして48年に『マークⅩ』をより高性能化した『マーク11』が誕生した。先に述べたように、“マーク”という名が規格名として正式に使われたのはこのモデルから。これによって『マーク11』以前のモデルを『マークⅩ』、その前のものを『マークⅨ』と呼ぶようになった。マークシリーズが中途半端な数字からはじまっているのは、この “11”が基準になっているからである。
その数字であるが『マーク11』からローマ数字ではなく、アラビア数字になっていることに違和感を覚える人もいるだろうが、これは正式なものだ。当時は戦後の微妙な時期で、イギリスがローマ数字を嫌ったから、ともいわれている。
1999年に発売された『マーク15』
アップデイトした機能では、名機として名高いCal.89の搭載がある。また、現代の『マーク』シリーズにも継承され、その代名詞的機能にもなっている軟鉄インナーケースが採用されたのもこのモデルからだ。その対峙性能は80,000A/m(1,000ガウス)。このケースを得ることで、『マーク』シリーズはパイロットウォッチとしてほぼ完成形に近づいたといえるだろう。
この『マーク』シリーズだが、『マーク11』の後はしばらく間が空き、市販化されたのは93年の『マーク12』からである。つまり、それ以前のモデルは軍納入がそのほとんどを占めたことで、市場流通は極めて少ないのが現状である。
ただ、第二次世界大戦中、イギリス空軍をに正式採用された『マーク』シリーズは、世界中のパイロットの憧れでもあった。誰もが納得するデザイン性もさることながら、生死をかけた実践の場で使用されたということで、機能性、操作性も高い。出会えたら、とてもラッキーな1本である。