アンティークを再注目させた復刻モデル
近年は多くのブランドが復刻モデルをローンチし、そのどれもが人気となっている。その先鞭をつけたのは、間違いなくロンジンのヘリテージシリーズである。かつての名作をアーカイブから選び、それをベースに現代のテクノロジーで蘇らせているので、どれもが名品という風格を持っている。それはロンジンが長い歴史を持ち、腕時計をつくり続けてきた証でもある。
このように復刻モデルにスポットが当たることで、アンティークウォッチの魅力にも再びスポットが当たっているのは、喜ばしいことである。
ではロンジンについて、歴史を簡単に紹介したい。
ロンジンの創業は1832年。今年190周年を迎えた。老舗ブランドが軒を連ねるスイスでも、かなり古い歴史を持ったブランドである。創業当初から精度の高い懐中時計を製作しており、当時、たびたび行われた博覧会でも数多く受賞している。獲得した金メダルの数は28個に及び、もっとも受賞数の多いブランドということになっている。
それは当時のロンジンが最先端を走っていたからでもある。創業間もない66年にはすでに工場を設立し、時計職人を1カ所に集めて製造するシステムをつくり出している。バラバラに活動し、それぞれのパーツを集めて製作を行うのが通例だった当時の時計製作においては画期的なことで、現在のマニュファクチュール(自社一貫製造)の体制を、19世紀のうちに確立していたのである。
また、時計にブランド名やロゴマークを記載したのもロンジンが最初だった。つまり「翼の砂時計」のロゴマークは、スイス時計界でもっとも古いブランドロゴということになる。
チャールズ・リンドバーグの腕時計
『リンドバーグ』
このように19世紀からその実力を示していたロンジンが、世界的に一躍名をあげたのが、1927年に誕生したパイロットウォッチだった。大西洋無着陸横断飛行を成功させたチャールズ・リンドバーグがナビゲーションウォッチを構想し、ロンジンに依頼したのである。それ以前の19年に国際航空連盟の公式認定を受けており、パイロットウォッチの製造が、ロンジンにとってすでに得意分野となっていたのも大きかったようだ。
リンドバーグの経験とアイディアを具現化したパイロットウォッチは、31年に名作『アワーアングル・ウォッチ』へと発展。航空計器の黎明期だったこの時代において、飛行士たちの必需品となった。それは航空機の現在位置を把握できる文字盤や、グローブを嵌めたままでも操作できる大きなリューズなど、機能的にも、実用性においても、その後のパイロットウォッチの指針となるものであった。
さらに36年にCal.13ZNを搭載したフライバッククロノグラフを、39年にスプリットセコンドを搭載した自社ムーブメント、47年には1/5秒の計測を可能にしたCal.30CHモデルなどを次々と発表している。いずれもパイロットウォッチ用に開発されたものだった。
『ロンジン クロノグラフ』
とくに20年代後半から40年代の手巻きムーヴメントは、優れた耐久性とデザインを併せ持っており、多くのファンを獲得している。この時代のロンジンはパイロットウォッチの雄として認知されているのである。
優れた耐久性を持ったロンジン
このように、ロンジンは手巻きパイロットウォッチの人気が高く、ロンジン=手巻きというイメージが強いが、シンプルな手巻き3針の名機もしっかりと製作している。その代表格がCal.12.68で、それらはクロノグラフ同様に優れた耐久性を持っていることもあり、各国の軍用時計に採用されている。
また、54年には現行のラインナップにも名を連ねるロングセラーで、自動巻きのモデルの名機Cal.19ASを搭載した『コンクエスト』も登場。
エレガントなデザインだが、Cal.19ASが小型になったことから防水ケースへの搭載が可能になり、耐震、耐磁性を備えた実用性の高い腕時計に仕上げられている。ゴールドケースに加え、ステンレスモデル、デイト表示付きのモデルもラインナップされるなど、当時から充実したシリーズだった。
ロンジン『コンクエスト』
ロンジンのアンティークウォッチは、やはり20年~40年代に発売されたパイロットウォッチの人気が高い。ただ、時代ごとに異なる特徴のものを製造していたことから、似たようなモデルであっても、針やケースにさまざまなバリエーションが揃っている。派手さがないこともあり価格は抑えられており、愛好家に一目置かれるような通好みのアンティークウォッチの中では、お買い得なモデルといえるだろう。