ムーブメントとの組み合わせを愉しめるのも、アンティークウォッチならでは

ムーブメントとの組み合わせを愉しめるのも、アンティークウォッチならでは

ムーブメントは2種類ある

 

 腕時計の心臓であるムーブメントには、大きく分けて「自社製」と「汎用」の2種類が存在する。自社製は、文字通り自社で設計から製造までをまかなうもの。「汎用」は、ムーブメント製造メーカーやムーブメントに定評のある時計メーカーが製作した、エボーシュと呼ばれる半完成品状態のムーブメントをベースに、ブランドが独自に手を加え完成させるものだ。

 現在では、自社製ムーブメント搭載モデル=高級品という認識になっている。それは21世紀に入り世界的時計ブームが起こって以降、「マニュファクチュール」と呼ばれる企画、設計から組み立て、仕上げまでを自社で一貫して行うブランドが増え、多くの高級ブランドが自社製ムーブメントを製作しはじめたことに起因する。

 自社でムーブメントを製作するとなると、当然、設備投資も含めて開発コストが掛かる。もちろん、製作できるだけの高い技術力も必要だ。ブランド側はコストを回収し、さらにブランド技術をアピールしてモデルの価値を高めるために、自社製ムーブメント搭載モデルを高価格に設定しているのである。

 それもあって、アンティークウォッチの大半に使用されている汎用ムーブメントに、廉価品というレッテルが貼られつつある。エボーシュ自体が量産品のため、コストを抑えつつ高性能を追求することができるので、価格は概ね低めに設定されるのは事実である。ただ、本設計がムーブメントメーカーによって決められているため、独自色を出すためには、それなりの技術を必要とすることを忘れてはならない。


もっとも広く普及している自動巻きムーブメント、ETA2824-2


汎用ムーブメントは当たり前


 そもそもスイスの時計産業は分業制で製造されてきており、自社製ムーブメントよりも汎用ムーブメントの方が主流だった。汎用ムーブメントを搭載することは、当たり前のことだったのだ。

 それは時計職人が集まり、ジャン・ジャック・ブランパンが、ジャン・マルク・ヴァシュロンが工房を開設するなど、時計産業が活気づいてきた18世紀頃から伝統である。

 当時のスイス時計産業は、早くから銀行システムを確立していたこともあり、資本家の指揮のもとに製造されていた。流れはこうだ。時計職人を時計部品ごとにエタブリスールと呼ばれる家内的工場が組織され、それぞれが特化した分業体制で部品がつくられる。その品質を組立業者がチェックして通過したら、組立てを行い、完成品にするのである。このシステムの中で、エボーシュ工場も誕生している。

 スイスの時計は伝統的にそうやって製作されてきた。


ヴァルジュー72


 たとえば20世紀半ばに登場した名品、ロレックスの『デイトナ』はバルジュー社製を、ブライトリング『ナビタイマー』はヴィーナス社製のムーブメントをチョイスして製品化しており、それぞれが現在も多くの愛好家から支持されている。


ヴィーナス178


 たまに「このアンティークウォッチは自社製ムーブメントではないんですか?」という質問を受けることがあるが、「自社製」と「汎用」のムーブメントが比較されはじめたのはここ10年のことで、そこを気にする必要はまったくない。

 同じモデルでも、年代によって搭載ムーブメントが違ったりもするし、その組み合わせの妙もアンティークウォッチの愉しみ方のひとつなのである。

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