A=アンティーク時計店・店長 B=マーケティング業・時計愛好家 C=投資家・時計コレクター D=時計ライター
座談会第3回目は、ロレックスがはじめようとしている認定中古から時計メーカーが設定する価格まで。ラグジュアリー商品の売り方についてが大きな話題となった。
アンティーク業界の新しい波
A:あと、ネット社会になって以降、インスタで「ロンジンのクロノグラフが凄いよ」ってインフルエンサーが言うと、みんなが同じものを探すという傾向があります。そういうプチバブルみたいなのはありますね。
C:独特な世界ですね、やっぱり。
ロンジン『30CH』1968年製
B:気になっているのが、ロレックスの認定中古がはじまるじゃないですか。そこに4桁とかもあるんじゃないかという噂も聞いたんですが、どうなんでしょうか。4桁をロレックスが扱いはじめたらアンティークショップに影響がありそうですか?
A:それはまったく影響ないと思います。アンティークが好きな人は、いかにオリジナルかで買うかなんです。認定中古車を見ればわかるんですけど、しっかり替えるべきパーツは替えて出すので、また別世界だと思います。
C:4桁とか、もうパーツがないじゃないですか。そういう場合、ロレックスはオーバーホールを受けてくれないと思うのですが。それをロレックスが扱うということはパーツをつくるということですかね?
A:パーツはつくるんでしょうね。
C:そうするとフルオリジナルじゃないから、前に話したように、アンティークとはまた違うってことになりますね。
A:そうですね。ロレックスが中古を売るのであれば、新品に近い性能を出せなかったら売ることはないと思います。当然、針の夜光は光るものに替えると思いますし。そういう流れですよね。
ロレックス『サブマリーナー』Ref.5513 1964年製
認定中古ウォッチはどのように売られる?
C:ロレックス認定中古の方が安くて、フルオリジナルの方が高い、ということが起こるかもしれないということですね。
A:そういうことはありえますね。推測なんですけども、ロレックスが売るということは下取りしたりという形を取ると思うんです。プレミアム価格がついてるものについて、ロレックスがその値で買い取るのか、ということですよね。だから、買取価格の設定にすべてがかかっていると思うのですが。
B:カルティエが数年前にアンティーク時計を買い漁ってたじゃないですか。
C:そういうことあったんですか。
B:あったんです。メルセデス・ベンツも昔の人気車種を買い集めて、整備して売るということをやってたんですよ。だからカルティエも正価では買ってないと思うんですけど、どの金額で買うかということですよね。
C:その買い漁ったものをどうするんですか?買ったあとは。
B:売ってますよ、結構いいものは。
カルティエ『マスト タンクLM』1983年製
C:じゃあ、認定中古と一緒ですね。そういう時はプレ値で買うということですね。ロレックスは、ちなみに2次市場の価格で売ってるらしいですよ。認定中古はブヘラが世界中で認定中古っぽくやってたみたいで、2次市場の価格で売ったと言いますから、今回もそうでしょうね。プレ値で買ってプレ値で売るみたいな感じですね。
B:ロレックスが新品で売らずに、最初から認定中古に回して売るみたいなことはないですかね?そうなるとマーケットコントロールすることができますよね。
C:そういうことをやりはじめるとできちゃいますね。
強まるメーカーのコントロール
D:いまはメーカー側がいろんなことをコントロールしようとしてますよね。
C:そうですね、メーカーのコントロールを強めようとしてますよね。
B:友達がランゲ&ゾーネを昨年の4月に予約して、3ヶ月で入荷しますって言われてたのに、いまだにこないって。それで、この間ランゲ&ゾーネのブティックに行ってみたら、同じように3ヶ月で入荷しますよって言われましたね。本当かどうかわからないですが。
C:あそこ、評判悪いですよ。リシュモングループのブティックは評判良くないですね。ヴァシュロン・コンスタンタンもリシュモンですけど、あそこのブティックも最近は評判悪いですよ。
B:ヴァシュロン・コンスタンタンは、また価格を上げるみたいですね。
C:現行モデルは価格が上がりすぎてますよね。もう買える層が決まってきてます。そこへいくと、アンティークは相場に踊らされないし、常に一定の市場価値がありますね。時計自体もそれほど精度が落ちるわけではないですし。防水性能とか、耐震性とかは若干劣るかもしれないですけど。僕は70年代以降の時計だったら、それほど気にならないんですが。
D:あと、修理とかも考慮すると全然お得ですね。
ヴァシュロン・コンスタンタン ラウンドオートマティックRef.6562 1970年代製
C:いまはメーカーでしか修理させないし、僕はいまの時計業界はおかしくなっているんじゃないかと思っています。平気で値上げするし、予約していても値上げした後の価格でしか売りませんとか言うし。メンテナンスも高いし。人件費が上がっているのはわかるんですけど、それ以上にいろんなコストを突っ込んでいますね。
D:そうですね。売れているからか、そういうところはありますね。
現行時計は高い!
B:現行はむちゃくちゃ高いですよ。
C:とくにここ数年ですよね。僕は数年前にハワイでロレックスを買おうとした時に、お店にたくさん並んでいましたし、価格も100万円いかずに、いろんな選択肢があったんでけどね。ここ数年、バブルになっちゃっいましたね。
D:オーデマ ピゲも20%上がるらしいですよ。
C:理由は人件費の高騰とか、資材の高騰ということですけど、それ以上に絶対乗っけていますよね。もう暴利を貪っているとしか思えないです。私はムカついているんですよ、新品の市場に。
B:パテック フィリップもですよね。
C:パテック フィリップを買うは買うんですけど「高いよ!」とか思っていて。もはや貴族の遊びの世界になっていますね。それに比べて、アンティークウォッチはいいですよね。みんなに目を向けてもらいたいくらいです。
B:現行がいいっていう人に、アンティークの魅力を伝えることはできないんですかね。
C:なんで現行にいっちゃうんですかね。Bさんも現行を買いますよね?
B:保証書もついてるし、キレイだし、誰も使ってないし。
C:リセール狙い?
B:リセールじゃないんですよ。新しいものがいい、みたいな感いいです。あるコレクターと話したことがあって「新しいものはキリがないですよ」って言われて。たとえば「ポルシェも新型に乗ったら、ずっと新型に乗り続けなきゃいけないよ」って。そういう古いものの魅力がわからないのは、まだ甘いと言われました。
C:僕は最新のポルシェが最良のポルシェだって刷り込まれたから買うんですけど。マーケティングメッセージに煽られてることがありますよね。
B:僕みたいにマーケティングの仕事を長年やっていても、そっちに煽られることがありますね。完全に踊らされているんですよ、僕は。
C:メディアは煽るの上手いですよね。新しいものを買わせようとする煽り方とか。
ラグジュアリーウォッチの見せ方
D:メディアもメーカーにコントロールされているところがありますけどね。
B:そうですね。
C:メーカーはスゴいですね。ルイ・ヴィトンの社長が世界一の金持ちになったという。イーロン・マスクに問題があったとはいえ、めちゃくちゃ儲けているんですよね、いまのやり方で。
B:Q店の銀座は、スゴくラグジュアリーなお店なんですけど、そこでアンティーク時計を見ても、スゴく良さそうに見えるんですよ。気のせいだと思うんですけど。だから雰囲気とかに呑まれているのかな、というのはありますね。だから、現行を買っている人たちにアンティークを買わせようとするのなら、銀座とかで雰囲気つくったお店をつくったら、もしかしたら売れるのかなと思いました。まさにブランディングというか。
C:ラグジュアリーっていうのは、モノだけじゃなくって、それを買うプロセスとか雰囲気も含めてラグジュアリーだから。そこは現行のブティックはしっかりできてますね。アンティークのお店は頑張らなきゃいけないと思います。Z店とかも本店と表参道店に行ってみましたけど、イマイチだと思いましたし。アンティークのお店はヘタクソですよね。やっぱり見せ方とかも含めてですよね、そういうのは。マニアがマニア向けにやってるからいけないんです、時計を並べとけばいいでしょ、みたいな感じになっていますから。
D:そういった時計好きな人のためのお店もいるし、新規に入ってくる人っには、いまおっしゃったみたいに華やかな感じが必要です。
B:ディスプレイの仕方も重要なのかな、と思います。ディスプレイで、同じものを見ていても全然違うように見えるんですよね。
C:Q店は上手ですよね。
B:あそこは上手です。
C:一等地にドーンと建てて。
B:絵を売ったり、高級ワインを振る舞ったり、お客さんをうまく取り込んでますよね。
C:アンティーク、ヴィンテージの時計は実機で勝負だ、みたいにいまはなっています。
B:パテック フィリップのブティックとかに行ったらシャンパンとか出てくるじゃないですか。
C:W店ももシャンパン出てきますよ。
B:あれ飲んだら買う人いますよね。