店舗デザイナーに聞く FIRE KIDSはここが変わった! 1/2 繁盛店デザインの方程式 コーポレートアイデンティティ編

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2022年3月26日(土)。FIRE KIDSは店舗を一新した。いじっていない場所はない、と言えるほどの大改造が実行されたにもかかわらず、FIRE KIDSに馴染みのある人には変わらぬFIRE KIDSらしさと居心地のよさがある。お店のアイデンティティ、個性は保ちながら、見た目も使い勝手もアップデートする。このプロジェクトを担当したのが『やまもデザインラボ』の空間デザイナー 山本成子さんだ。


>>ファイアーキッズの想い

 

人気店の人気の理由をデザインする


「FIRE KIDSのあるべき姿は、時計をゆっくり見れて、いろいろな話ができる居心地の良いスペースであることです」


山本成子さんが言うと「昨日も鈴木さん、お客さんと5時間も話し込んでいたんですよ……」と野村店長がちょっと呆れた顔で言う。


鈴木雄士さん(左)と野村一成さん(右)
>>ファイアーキッズの想い

 

 FIRE KIDSはそもそもは創業者の鈴木雄士さんが、扉すらなかったという六角橋商店街の一区画を、長い年月をかけて、手作りで作り上げていったお店。


「その鈴木さんの築き上げた雰囲気が、FIRE KIDSのコーポレートアイデンティティです」


山本成子さんは、そう言う。


山本さんは大学卒業後、デザイン会社に所属し、これまでたくさんのイベント会場やポップアップストアの空間デザインを経験してきた。


地域をあげての大規模な催し、グローバル企業の展示会のブースやショールーム、日本全国に同時多発的に立ち上げられるポップアップストアなどで求められるのは、それぞれにちがう立地条件に存在しながらも、印象は統一されたデザイン。これが企業や企画のアイデンティティだ。


FIRE KIDSの店舗をリニューアルしよう、という話になったとき、ちょうど独立したばかりの山本さんに相談が行ったのは、山本さんがこのコーポレートアイデンティティという発想から物事を考えるから。


FIRE KIDSはFIRE KIDSらしさをなくしてまで、店舗を刷新しようとはおもっていなかった。そして、山本さんのデザインは、勘や美意識だけに頼ったものではなく、緻密な計算で、FIRE KIDSらしさを表現しているのだ。


デザインの過程


「最初はお店の写真を見ながら、どうしたらいいかを考えました」


お店の写真、というのはもちろん、リニューアル前のFIRE KIDSのこと。彼女が注目したのは、意外にも「おもちゃ」だった。


「鈴木さんがコレクションしたおもちゃは、ホコリをかぶったりしていましたがステキなものばかりでした。これをキレイに見せていこうと考えました」


>>ファイアーキッズの想い

いっそ、時計と関係のないおもちゃなんて、リニューアルを機に置くのをやめてしまおうとはおもわなかったんですか?


「いえいえ! 時計店でありながら、時計以外のものがある。それがフリーマーケットからスタートしたこのお店の歴史を物語っていますし、商売人ではなく趣味人、古いものが好きで、それを大事している人のお店、FIRE KIDSのアイデンティティです。だから、これをきちんと陳列しようとおもいました」


そして、鈴木さんの思い描いていたFIRE KIDSのデザインテーマがアイリッシュパブだったため、そのイメージをより明確化した。温かみのあるマホガニー色の木の店舗が基本イメージ。もちろん、ここは時計店。そうであることがわかり、商品である時計がキレイに見えるように、そしてデジタル要素としてモニターを組み合わせたラフ案を、山本さんは提案した。


イメージを具体化する


ラフ案が採用となるころ、山本さんは、FIRE KIDSのような商店型の時計店、商店街、家電量販店の時計売り場、さらには、おなじ機械のお店である中古カメラ店や時計の修理工房を見て回り、時計とその周辺の世界を体験していった。そして、よりFIRE KIDSの姿を具体化していく。


「私のやっている内装、空間デザインは建築の一種で、工学なんです。私はお洋服も好きなのですが、工学の分野で扱う、機械とかテクノロジーも好きです。だから時計のお店を見るのは楽しかったです。そうして、人が集まっているお店とそうではないお店のちがいがどこにあるのかを分析していきました」


そのなかで発見したのが、商品が通路に向かって陳列されていて、外から店内が見えるお店には、お客さんが集まりやすく、ゆっくり話をしている、ということ。そこで、六角橋商店街の街路に向かって時計を陳列する棚をつくり、店内を外からも見えるようにした。


>>ファイアーキッズの想い

 

「扉に向かって左側のスペースにはおもちゃを置いて、ここが時計店と分かるように、鈴木さんのコレクションの大きな古時計をかけました」


>>ファイアーキッズの想い

 

アスカちゃんとジョージくん


意外なのがお店の前にいる、時代を感じさせる人形が残ったこと。これを不採用にしようとはおもわなかったんですか? とたずねてみると


「これは六角橋商店街のマスコットなんですよ! 近所の小さな子が、毎日、FIRE KIDSの前を通って、この人形を触っていくんです。リニューアルにあたって、一時期、倉庫にしまっていたんですが、そうしたら、いないって子供が寂しそうにしていて……」


それは可哀そう!


「それに、マスコットを0から生み出して、それが多くの人に受け入れられるというのは大変なことなんです。アスカちゃんとジョージくんはもう、FIRE KIDSの、そして六角橋商店街のマスコット。これを利用しない手はありません」



アスカちゃんとジョージくん?
>>ファイアーキッズの想い

 

「鈴木さんが考えた名前です。鈴木さんが若い頃、フリーマーケットで見つけてきたものだそうです。ちなみに、お店の看板の上にいるのが、お母さんです」


そんな設定があったとは……


アイリッシュパブのイメージで本物の木を使った温かみのある店舗に、鈴木さんが長い年月をかけて集めたおもちゃや人形をよりキレイに、きちんと配置し、大きな窓で、外から店内が見える。


大枠が決まると、山本さんはさらに、細部のデザインを進めた……