目指したのはCOSC並みの精度
日本を代表する時計メーカー、セイコーもヴィンテージ市場では人気である。なかでも、最高峰と呼ばれるグランドセイコーは押さえておきたい腕時計だ。
グランドセイコーは、1960年に「スイスの高級品に挑戦する国産高級品」を、ということで産声をあげている。当時のセイコーは、現在と違いまだ世界的に認知されるブランドではなかった。ただ、志は高く、時計大国として君臨していたスイスに肩を並べる、という大きな目標を掲げていたのである。それが現在よりも格段に高い山であったことは想像に難くない。
グランドセイコーがまず目指したのは、COSC(スイス公式クロノメーター検定)並みの精度。正確性である。それもあってか、初代グランドセイコーの文字盤には「Chronometer」の文字が刻まれている。これはCOSCを通したわけではなく、セイコー独自の精度基準を設け、それをクリアした時計ということだった。
このセイコーの規格はCOSCに準じたもので、多岐にわたる姿勢差テストなどを15日間繰り返し行うというもの。それはかなり厳格な基準だったようだ。そして、この精度規格に合格したものが、グランドセイコーとして製品化されたのである。その証として、ケースバックに獅子マークのメダリオンが嵌め込まれている。グランドセイコーは、それほどの想いが詰まったモデルだったのだ。
ファーストモデルは金張りの高級時計
その初代グランドセイコーは、金張りの高級時計だった。金張りは、他の金属に金合金の薄い膜を貼り付けるというもの。金メッキとは別物で、GF(Gold Filled)と表記される。搭載のムーブメントは自社製Cal.3180。先に述べたように、COSC並みの基準をクリアした高精度キャリバーである。
また、2017年にグランドセイコーがブランド化された際に、復刻モデルが発売されたが、こちらは18金のイエローゴールドケースを採用しているので、金張りのグランドセイコーはこの時代のものでしか見ることができない。
続くセカンドモデルは、64年の発売の「GSセルフデーター」。“セルフデーター”とは日付表示機能のことで、セイコー独自の名称になる。こちらはCal.5722を搭載していることもあり、「57GS(ゴーナナジーエス)」とも呼ばれている。このモデルには、その早送りカレンダーの他に、耐震装置ダイヤショックが搭載されていることも大きな特徴となった。
初代に刻まれていたChronometerの文字は、57GS初期にはあったが、後期モデルからはなくなっている。これは、COSCから遠慮してくれという話があったから、ということだ。
スイス・ニューシャテル天文台コンクールに参加
このようにグランドセイコーが新しいモデルを発売し、順調に進化していくなか、セイコーは64年から「究極の精度を競う」スイス・ニューシャテル天文台コンクールに参加し、スイス時計とその精度を競い合っている。
そして、そこに投じた技術を惜しみなくグランドセイコーに反映させていくことで、グランドセイコーを進化させている。自動車メーカーがF1レースで培った技術を市販車に反映させていくように、フィードバックされた技術は世界水準にまで高められていったのだ。
ちなみにセイコー初出品の翌年の65年には、出品した時計の平均成績を競うシリーズ賞で第6位、66年に第3位、67年には第2位と順位を上げていった。そして、来年は優勝を、と意気込んだのだが、68年はコンクール自体が中止となった。これは、後にわかったことなのだが、日本に世界の頂点の座を奪われることを主催者側が恐れたからだった。現在も欧州のスポーツ競技等で行われている洗礼を、セイコーはこの時代に経験していたのである。
セイコースタイルを確立した44GS
そういうこともあり、60年代のセイコーには名作と呼ばれるモデルが数多く誕生している。とくに67年のCal.4420を搭載した「44GS」は、伝説的な名機と呼ばれている。
このモデルは、デザイン面でもセイコースタイルを確立したとされる名品である。他の2倍の幅を持つ12時インデックスや多面カットのインデックス、そして、鏡面研磨されたガラス縁上面、ケース平面など、9つの構成要素は、現代のグランドセイコーにもしっかりと受け継がれている。
「44GS」と同じ67年には、グランドセイコー初の自動巻きモデル「62GS」をローンチ。このモデルはリューズが4時位置に、ケースに埋め込むように付けられる、という独特のデザインとなっている。
翌68年は10振動/秒の高速ムーブメントを搭載した「61GS」を、69年には月差±1分という、とてつもない精度を誇る「45GS V.F.A」と「61GS V.F.A」をローンチしている。V.F.AとはVery Fine Adjustedのこと。ニューシャテル天文台コンクールでトップに迫った自信が、このネーミングに表れている。
グランドセイコーは「スイスの高級品に挑戦する国産高級品」を目指した60年代に、多くの名品が存在する。それらは、いまだに現行モデルのベースになっているほど、魅力的な腕時計なのである。