スイスに肩を並べるべく誕生
国産ウォッチを代表するブランドのひとつであるグランドセイコー(GS)は、1960年に誕生している。時計大国として君臨していたスイスに肩を並べるべく「スイス製腕時計に負けない、国産の最高級時計を」という大きな目標を掲げてスタートしているのだ。当然、まだセイコーのいちモデルであり、セイコー自体も世界的に認知される前のことだったので、それが格段に高い山であったことは想像に難くない。
GSは、59年に製造された『セイコークラウン』をベースモデルとして、さらなる高性能化が施されていた。搭載のCal.3180は、もっとも優れた精度規格とされていたスイス・クロノメーター検定局と同じレベルの精度を実現したのである。ただ、それは実際にスイスの検定局に通したわけではなく、あくまでもセイコー独自のものだった。しかし、その精度の証として、文字盤には「Chronometer」の文字が刻まれており、裏蓋には獅子マークのメダリオンが刻印されている。
さらに、このCal.3180は国産初の秒針停止機能や緩急針での精度微調整機構も併せ持っており、国産最高峰であったのは間違いないだろう。
2ndモデルは64年に登場する。いわゆる「GSセルフデーター」と呼ばれるモデルで、Cal.5722を搭載してたことから『57GS』と呼ばれるモデルである。特徴は、カレンダーが加わったこと。さらにダイヤショックと呼ばれる耐震装置が装備されている。
しかしこの2ndモデルだが、当初は初代同様に文字盤に「Chronometer」が裏蓋に獅子が刻まれていたが、後期になると「Chronometer」がなくなり、獅子はGSマークへと変更されており、スイスからの横槍が入ったのでは、と推測される。
そして67年にはGSの外装デザインを確立したとされる『44GS』が製作される。丁寧な仕上げ、加工によってつくりだされるコントラストがもたらす立体感など、現在に至る“セイコースタイル”ともいえるデザインコードは、このモデルによって確立されたのだ。ただ“44”は“57”同様に、デザインではなくCal.4420を搭載してたことによるネーミングである。
ニューシャテル天文台コンクール
ちなみにこの67年はセイコーが64年から参加している、精度を競う最高峰の場、ニューシャテル天文台コンクールにおいて、手巻き10振動/秒のCal.4520とCal.4580が、それぞれ4位、2位入賞を果たすなど、上位を占めている。しかも、スイスブランドがコンクール用に精度を追い込んだものを投入しているのに対し、セイコーは商品化する通常ベースのものを出品していたそうだ。
そんなGSに脅威を感じたのか(そういう噂もある)、翌年からランク付は廃止されたのだという。つまり、現在、F1やスキージャンプといったスポーツの世界で行われている、欧州本位のレギュレーションの変更が、この時代から横行していたようなのだ。
ただ、これは見方によれば日本製品の勲章ともいえる出来事でもある。
さらにこの67年には、GS初の自動巻きモデル『62GS』が登場している。リューズが4時位置に埋め込むようにセットされた独創的なデザインが特徴だ。翌年には、国産初の自動巻き10振動/秒の『61GS』が誕生し、自動巻きモデルの時代へと入っていく。そして70年に発表された『GS V.F.A』では、日差±2秒以内という驚異的な精度を誇るまでに進化したのである。ちなみにV.F.Aとは、Very Fine Adjustedのことであり、まさに読んで字の如く、である。
つまり、60年代~70年にかけて、王国スイスに追いつけ、追い越せと精度、デザイン、仕上げを高めていったGSは、約10年という短期間に最高水準の腕時計へと進化した、と言っても過言ではない。この時代のGSアンティークは、コンディションさえよければ間違いのない腕時計ともいえるのだ。
ただ、そんな名コレクションも自社が開発したクォーツムーブメントの台頭によって、一時生産中止になるとは皮肉なものである。