腕時計史上最高額での落札
2017年秋、ニューヨークで行われたオークションで、ポール・ニューマン自身が実際に着用した「コスモグラフ デイトナ」が、約20億円という驚くべき金額で落札され、大きなニュースとなった。もちろん、腕時計史上最高の落札額である。
このようにロレックスの「コスモグラフ デイトナ」は、とてつもない人気モデルとなっている。ヴィンテージ市場では、ポール・ニューマン所有のもの、とまでは行かないまでも、数千万円の値がついているものも多い。現行モデルでさえも、購入した瞬間に価格が上がっているという凄さである。
その「コスモグラフ デイトナ」だが、最初のモデルは1963年に登場している。もちろん、名前の由来はアメリカ・フロリダ州にあるオーバルトラック「デイトナ・インターナショナル・スピードウェイ」からである。
デイトナとロレックスとのつながりは、その前年の62年にデイトナ・スピードウェイのオフィシャル・タイムキーパーとなったことにはじまる。新作にその名を冠して、有名なサーキットと提携していることを強調したのである。というわけで、このモデルはカーレーサー向けに製作されており、他のクロノグラフモデルよりもベゼルのタキメータースケールが、かなり大きく設けられている。
視認性が高い1stモデル
1stモデルは、63年から65年頃まで製作されている。リファレンスは6239と6242。Ref.6239とRef.6241の違いは、ベゼルがステンレス(6239)と強化プラスチック(6241)だけである。インダイヤルを文字盤の色と反転させることで、より視認性の高い仕様となっている。
ムーブメントはバルジュー製Cal.72系をカスタマイズしたCal.72B、もしくはCal.722である。これはロレックスがキャリバーを手直しし、ブランド独自の衝撃吸収機構などを組み込んだものだ。
そして、65年にはRef.6240が登場。ねじ込み式のプッシュボタンになったことで、それまでの30mから50mに防水性能がアップ。ストップウォッチ機能のないオイスターモデルと同じくらい密閉性を持つことになった。
続く2ndモデルは、プラスチックベゼルとステンレスベゼルの2種類である。見た目に大きな変更はない。ただ、ムーブメントはCal.72Bをベースに、チューンナップしたCal.727を搭載。振動数を5振動/秒から6振動/秒をアップさせ、精度を上げている。
さらに、耐震構造を強化。キフ・ウルトラフレックスという耐震装置を搭載し、縦振動への耐性をアップさせている。この装置はムーブメントを真上から覗くと、人工ルビーがハート型に見えるという、わかりやすい特徴がある。
セレブリティたちを魅了する
60年代後半の、この時代あたりから「コスモグラフ デイトナ」は、カーレース好きのセレブリティたちを魅了していく。とくに有名なのが、冒頭に述べたポール・ニューマンである。
彼は俳優業の傍らカーレースにも情熱を傾けており、自身のレーシングチームまで保有していた。レース中もその腕には「デイトナ」が着けられていたほどだ。ニューマンはロレックスのアンバサダーではなく、特別なつながりがある人物でもなかったが、愛好家として着用し続けていたのだ。
そして、彼がよく着けていたのが3rdモデルのRef.6263。なかでもレアな文字盤を持つエキゾチックダイヤルを好んで着けていた。それはホワイト&ブラック文字盤で、インダイヤルと外周のセコンドトラックが反転カラーになり、さらに一段窪んだ状態で立体的に見えるのも特徴だ。インダイヤルのアラビアインデックスが大きいのもこのモデルならではである。
この「デイトナ」を、愛好家たちは“ポール・ニューマン デイトナ”と呼ぶようになり、圧倒的な人気を博するようになる。現在、数千万円の値がつくモデルでもある。また、ポール・ニューマン デイトナには、生産初期のフラッシュフィット一体型巻き込みブレスレットが装備されており、完全なオリジナル状態で残っていれば、億を超える超レアものといわれている。
3rdモデルは、製造期間が約18年と非常に長く、「デイトナ」としては最長になる。手巻きムーブメントの最終モデルであり、完成形でもある。このモデルから「デイトナ」もオイスターの名を冠することになり、「オイスターパーペチュアル・コスモグラフ・デイトナ」となっている。
そして、88年の4thモデルから、10振動/秒の名機、ゼニス製の「エル・プリメロ」を搭載することになり、「コスモグラフ デイトナ」も自動巻きの時代に入っていく。ベゼルは金属製に統一、さらにサファイアクリスタル製の風防が採用されたことで、防水性能も100mまで向上している。