【オーナーインタビュー】腕時計を見るたびに呼び覚まされる、懐かしの日々、良き友、そして最高の“思い出” 〜実業家  大西賢尊 文=土田貴史

【オーナーインタビュー】腕時計を見るたびに呼び覚まされる、懐かしの日々、良き友、そして最高の“思い出” 〜実業家 大西賢尊 文=土田貴史

 

時計好きに「あなたの時計、見せてください」という企画。今回、時計を見せてもらったのは、大手電気メーカーの海外営業を経て、現在は新規事業の立ち上げを計画中の大西賢尊(まさたか)さん。愛用の時計は、ジャガー・ルクルト「マスター コンプレッサー メモボックス」である。

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きっかけは勘違い

大西賢尊さんが、ジャガー・ルクルト『マスター コンプレッサー メモボックス』と出合ったのは、某有名電機メーカーの営業マンとして、香港に赴任していた時代。ひと目で虜となったが、きっかけは“勘違い”だった。

 

「僕は、クルマがとても好きなんですが、かつてアバルトのダッシュボードにはイェーガー社のメーターが付いていました。だから、てっきりジャガー・ルクルトの“ジャガー”とは、あのイェーガーだと思ったんです。だって、インデックスのフォントもそっくり。メーターの会社が、ついに時計を作ったんだ! カッコいいなぁ!! って(笑)」

 

その後、ブランドをよくよく調べ、メーター会社とは異なる会社と分かった大西さん。ただ、関連性がまったくないとも言い切れないようで……。

 

「ジャガー・ルクルトと合併する前身のジャガーという会社は、メーターを作っていたイェーガー社のスタッフがスピンアウトして設立した会社らしいんです。ですから、まったく関係がないわけじゃなかった」

 

イタリアのクラシックカーには、アバルトしかり、フェラーリしかり、このイェーガー社が製作したスピードメーターが付いている。大西さんは、そのことを知っていたから、この時計にピンときたのだ。そして週末になると、実機を眺めるべく時計店に足を運び、やがて担当スタッフとも打ち解けていく。

 

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「見た目はケーシー高峰さんなんですが、名前が“ジャッキー・チェン”と同姓同名(笑)。彼に、何度もこの時計をショーケースから出してもらって、腕に載せたりしてね。ジャッキーとは、とにかくいろんな話をしました。香港の将来とかもね」

 

大西さんが暮らした2004年当時の香港は、激動の最中にあった。1997年に香港が中国に返還され、中国景気がいよいよ加速していくなかで、香港人が中国本土に出稼ぎにいくという大きな変化のタイミングだったそうだ。そんな香港の将来をどう見るか。ショーケースを挟み、政治経済、子供の話、はたまた旨い飯の話まで、あらゆる話をしたそうだ。

 

僕にとっては心の友

そんな矢先、大西さんに帰国の辞令が下り、そのことを大西さんはジャッキーに伝えに行く。

 

「そしたら、ジャッキーが“お前、この時計を買えよって。もう、お前から儲けるつもりはないから、安くする”って。そこまで言われたんだから、僕も踏ん切りをつけました。そして、ジャッキーが商品を包みにバックヤードに下がった際に、隣にいた別のスタッフに言われたんです。“おまえ知ってる? おまえが帰った後、ジャッキーはいつもこの時計をショーケースの後ろに隠してたんだよ。アイツ、ぜったい、おまえに売るって言ってた。だから、他の誰かに買われないように、アイツは毎回隠してたんだ”って」

 

強面で、ケーシー高峰似。客にモノを売る顔つきではなく、黙っていると、ただ怖いだけという印象。ところが週末になるとジャガー・ルクルトをショーケースに戻し、何事もなかったように大西さんを待っていたジャッキー。

 

「たとえ第一印象は最悪でも(笑)、僕にとっては心の友です」

 

大西さんは、時計に目をやるたびに、そうした香港での日々を生き生きと思い出すそうだ。そんな大西さんにとっての腕時計論とは……。

 

「やはり“思い出”ですね。長く付き合って、たくさんの“思い出”を作りたい。“思い出”って、言葉にすると軽く聞こえてしまいますが、きっと自分もいつか死を目前にしたときに、“思い出”をアタマに浮かべながら死ぬような気がするんです。だから“思い出”は多いほうがいいと思う。腕時計はそれらを思い出すスイッチだと思うんです」

 
大西さんが大切にしているもう1本は、お祖父さまの形見の『セイコー マティック』。大西さんが生まれた時には、すでに亡くなっていたのでお父さまを経由して譲り受けた。「オーバーホールして、ベルトも替えていますが、外装は磨かないようにしています。会うことが叶わなかったお祖父ちゃんの傷だから」

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あらゆるアイテムが使い捨ての現代で、腕時計は流行に左右されることなく、ひとつのものと長く付き合うことができる稀有なアイテムである。大西さんは、この先もジャガー・ルクルトを腕に、人生を歩んでいくそうだ。

 

 

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